XS-1

ヤマハのXS-1が発売された年

ヤマハのXS-1は、このメーカーがはじめて世に送り出した4ストロークモデルのバイクである。
1969年の東京モーターショーにおいて発表され、大きな話題になった。

このモデルが翌1970年に発売された背景には、当時のバイク業界だけでなく社会情勢も深く関わっている。
まず1969年7月にアメリカのアポロ11号が月面着陸に成功、アメリカのみならず日本を含めた世界中が科学技術の進歩がもたらす夢とロマンに酔っている状況となっており、それがバイクシーンにも影響を及ぼしていたのだ。
このXS-1が発表された東京モーターショーでは明るい未来を演出する雰囲気にあふれており、各メーカーも最先端の技術を導入したモデルの開発に乗り出す環境にあった。

さらに日本では高度成長期であり、バイクが実用としての面だけでなくレジャーやスポーツ用のアイテムとして見直される傾向が見られていた。
「楽しむために乗る」というニーズ二答える形で、各メーカーが高性能でスポーティーなモデルの開発を進めていたのだ。
そしてもうひとつ、日本各地で高速道路の建設が進むなどバイクの高速化・大型化への需要が高まっているのも、このXS-1が1970年に世に送り出された背景として挙げられるだろう。
まさに「時代に求められて登場したバイク」だったのだ。

XS-1が名車と呼ばれる理由

このような時代背景のもとでヤマハ発の4ストロークモデルとして登場したXS-1は、「時代の先駆者」として高く評価されている。
当時求められていた「コンパクトで大排気量」のテーマをヤマハ当時として最高のレベルで応えることに成功し、このXS-1こそ「新しい時代のバイク」の理想的な形としてみなされるようになった面もある。
この先駆者、開拓者としての評価は時代を超えて現在まで受け継がれている。

ヤマハらしい細身でスタイリッシュなデザイン、そこにスリムなバーチカルツインエンジンを搭載することで軽量かつ高出力を実現。
単に性能面に優れているだけで乗り心地もよく、実用性と「バイクに乗るのを楽しむ」面の両方を高いレベルで備えている点も、幅広い層から評価される要因となった。
この点は、当時XS-1の正式名称にちなんで「ペケエス」という愛称が付けられたことからもうかがえるだろう。

この細身のデザインとコンパクト性、さらに軽快な乗り心地のよさは新しいスポーツバイクのスタイルを生み出すきっかけにもなった。
「すごい性能をもったバイク」ではなく、「乗っていて楽しいバイク」「目的がなくても乗りためだけに乗りたくなるバイク」としての位置づけである。
これは現在まで受け継がれる日本人にとっての「理想のバイク」のモデルになったといっても過言ではないだろう。